働き方改革とは?基礎知識・目的・取り組み方を解説
目次[非表示]
- 1.働き方改革とは
- 2.働き方改革の背景
- 2.1.労働力人口の減少
- 2.2.多様な働き方へのニーズの高まり
- 3.労働力不足解消に向けた3つの課題
- 3.1.長時間労働の是正
- 3.2.正規・非正規の格差解消
- 3.3.高齢者の就労促進
- 4.働き方改革における政府の対応
- 5.働き方改革関連法における変更点
- 5.1.時間外労働の上限規制
- 5.2.勤務間インターバル制度の導入促進
- 5.3.年5日の年次有給休暇の取得
- 5.4.労働時間の客観的な把握
- 5.5.月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
- 5.6.「フレックスタイム制」の清算期間延長
- 5.7.高度プロフェッショナル制度の導入
- 5.8.雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
- 5.9.労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
- 5.10.産業医・産業保健機能の強化
- 5.11.中小企業における割増賃金率猶予措置の廃止
- 6.企業の働き方改革推進状況
- 7.企業が働き方改革を促進するメリット
- 8. 企業が働き方改革を促進するデメリット
- 9.働き方改革の推進による助成金
- 9.1.働き方改革推進支援助成金
- 9.2.業務改善助成金
- 9.3.キャリアアップ助成金
- 10.働き方改革の施策例
- 10.1.社員スキル向上・生産性を向上させる
- 10.2.賃金体系を見直す
- 10.3.労働時間の使い方を見直す
- 10.4.マニュアルを整備する
- 11.働き方改革の成功事例
- 12.リンクアカデミーの生産性向上研修で働き方改革を促進
- 13.リンクアカデミーの研修導入事例
- 14.記事まとめ
- 15.働き方改革に関するよくある質問
少子高齢化に伴う労働人口の減少や多様な働き方へのニーズに対応するために、政府が主導して行われているものの1つが働き方改革です。働き方改革は大企業だけではなく、中小企業にとっても重要な経営課題として認知されています。加えて、近年は新型コロナウイルスの蔓延に伴って更に働き方への考え方が変化しているため、企業はその対応を求められています。本記事では働き方改革の基礎的な知識やその目的、取り組み方などをご紹介します。
働き方改革とは
働き方改革とは、2016年に設置された「働き方改革実現会議」や2017年に計画された「働き方改革実行計画」、2019年4月に施行された「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」など、現在に至るまで働き方の変化を起こすために行われた取り組みのことを指しています。
働き方改革は、人々がそれぞれの事情に応じて多様な働き方を選択できる社会を実現することを目的にしています。そのために、長時間労働の是正や、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保などに政府や企業が取り組んでいます。
働き方改革は大企業だけではなく、中小企業にも経営方針として取り入れることが求められており、国全体をあげての取り組みだと言えるでしょう。
働き方改革の背景
労働力人口の減少
日本では労働人口の減少が問題になっています。少子高齢化が続くことで、労働人口はこの先も減少していくことが予測されており、働き手の負担の増加が懸念されています。
経済産業省が公表している「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」の中では、下図のように日本の人口は2050年には約1億人まで減少することが予測されています。加えて、労働人口の比率の減少が加速していくと言われており、国内の経済成長が鈍化する可能性が生じています。
(出典:経済産業省「2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について」)
また、「2025年問題」として、いわゆる団塊の世代の800万人が75歳以上の後期高齢者となることで社会福祉の負担増加や企業の廃業増加などが懸念されています。
短期的・長期的どちらも労働人口の減少が問題になることが予測されているため、働き方改革による生産性の向上などは必要だと言えるでしょう。
▼生産性について詳しい解説はこちら
多様な働き方へのニーズの高まり
労働人口の減少に加えて、人々の働き方が多様化していることも働き方改革が重要視されている背景になっています。これまでは年功序列で終身雇用の雇用形態が多くの企業で採用されており、労働者もそれを期待して働いていました。しかし、現在では転職は一般的になっており、「男性が働いて女性は家庭を守る」といった考えも変わってきていると言われています。また、下記のようなライフスタイルの変化も多様な働き方のニーズの高まりに繋がっています。
・単身世帯が増加している
・女性の社会進出が進んできている
・リモートワークが一般的になっている
・転職や独立が身近になっている
・給与やポジションよりもワークライフバランスを重視するようになっている
個々人のライフスタイルが多様化している中では、育児や介護、趣味などプライベートの時間と仕事の時間のバランスを取ることが重要になっています。多様な働き方に対応できる国や企業の体制をつくることは、結果として労働者のパフォーマンスを向上させて経済的な成長に繋がっていくでしょう。
労働力不足解消に向けた3つの課題
長時間労働の是正
日本は2013年に国際連合から長時間労働に関して下記のような勧告を受けています。
・労働者の多くが長時間労働を行っており、それに伴う過労死が増加し続けている
・過労死の増加を止めるために、長時間労働を防止する措置が必要
・長時間労働を是正しない事業者に対しては、予防効果がある制裁を行うことが必要
国際的にも日本の労働者は過度な長時間の労働に従事しているということが指摘されており、その是正を求められています。国内でも長時間労働やハラスメントによる過労死は問題視されており、その発生は大きく報道されることがあります。
長時間労働が改善されない場合には、労働者のストレスや疲労の増大に繋がり、場合によっては心身の不調にも発展することがあります。また、労働時間が長時間になることで家事や育児などプライベートの時間が少なくなってしまいます。その結果、「働きながら子育ては難しい」といった意識が強くなり、結婚や出生率の低下、女性の活躍の阻害などの問題も生じていくと考えられます。
正規・非正規の格差解消
日本では正規社員と非正規社員の賃金差など、その処遇に格差があることが指摘されてきました。内閣府が公表している「働き方の変化と経済・国民生活への影響」では、2005年時点では正規社員と非正規社員の給与を時給で換算した際に1.7倍の差があり、ボーナスや所定外給与を含めた年収を時給換算すると2倍以上の格差があったことが示されています。その後非正規社員の時給は上昇してきましたが、非正規社員の給与は時給換算で正規社員の6割程度であり、欧米が8割程度に達しているのと比べても依然としてその格差は大きいと言われています。
本当は働く意欲や能力があったとしても、育児や介護などを行いながら正規社員として働くことが難しいという理由で、非正規社員としての勤務を選択している人もいるでしょう。その状況で正規社員と非正規社員の間で格差が広がっていると、元々持っている能力を発揮することが難しくなってしまいます。
高齢者の就労促進
内閣府が公表している「令和4年版高齢社会白書(全体版)」では、日本の総人口を占める高齢者の割合である高齢化率は28.6%だと言われています。国際的に高齢化率は上昇していますが、日本は主要な諸外国と比較しても高い高齢化率であることが分かっています。
(出典:世界の高齢化率の推移)
また、現在仕事をしている60歳以上の人の約4割は「働けるうちはいつまでも」働きたいと回答しており、「70歳くらい」「70歳以上」と合わせると約9割の人が高齢者でも就業意欲があることが分かっています。
(出典:あなたは、何歳ごろまで収入を伴う仕事をしたいですか)
「人生100年時代」と言われている現在では、高齢者の雇用や働き口の確保を行ってその労働を支えることは個人の意思の尊重をするだけではなく、全体の労働生産性を向上するためにも重要なことだと言えます。特に、高齢者は非正規社員として雇用されることが多いため、正規社員との格差の是正や適切な働き方の提供が必要になるでしょう。
働き方改革における政府の対応
働き方改革を進めていく上で、政府は下記のように法整備を行ってきました。
・2016年9月:「働き方改革実現会議」の設置
・2017年3月:「働き方改革実行計画」により「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」などの9つの分野での方針を提示
・2018年6月:「働き方改革法案」が成立
・2019年4月:「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」の施行
働き方改革に伴って新しく法律ができたように見えますが、現在施行が順次行われている「働き方改革関連法案」は、これまであった働き方に関する下記の法律を総称したものです。
・労働基準法
・労働時間等設定改善法
・労働安全衛生法
・じん肺法
・パートタイム・有期雇用労働法
・労働者派遣法
・労働契約法
・雇用対策法
新しく「働き方改革関連法案」ができたわけではなく、働き方改革に向けて各法律を整理したものであることに注意しておきましょう。
働き方改革関連法における変更点
時間外労働の上限規制
従来は時間外労働の上限時間は定められていませんでしたが、労働基準法の改正により、時間外労働の上限規制が行われるようになりました。大企業については2019年4月から下記のような上限規制が開始されており、中小企業は2020年4月から開始されています。
・時間外労働は年間で720時間以内とする
・休日労働と時間外労働の合計は、月間100時間未満とする
・休日労働と時間外労働の2〜6ヶ月平均は、全て80時間以内とする
・時間外労働が月間45時間以内であり、45時間を超えることができるのは年6ヶ月までとする
自動車運転の業務や医師、建設業などの一部の産業・業務に対しては猶予が設けられており、2024年3月末日まで上限規制の適用が行われないことが決まっています。また、研究開発分野の業務に対しては、上限規制が設けられていません。
(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制」)
勤務間インターバル制度の導入促進
「勤務間インターバル制度」とは、1日の勤務が終了した後、翌日の勤務までの間に一定時間以上のインターバル時間(休息時間)を設ける制度です。
近年はフレックスタイムや変形労働時間制、裁量労働制といった労働時間制度を採用する企業が増えてきました。柔軟に勤務時間を調整することで、繁忙期などに対応することができるようになりますが、長時間労働が続いたり勤務間隔が短くなったりする場合が生じることがあります。そのような状態が続くと、十分に休息を取ることができずに労働者の疲労やストレスが増加することに繋がります。
現在の労働時間制度と併せて勤務間インターバル制度を導入することで、十分な休息を取ることができるようになるでしょう。
(参考:e-Gov法令検索「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」)
年5日の年次有給休暇の取得
労働基準法の改正により、企業は年5日の年次有給休暇を労働者に取得させることが義務付けられました。内容としては、法定の年次有給休暇の付与日数が10日以上の全ての労働者が対象であり、労働者の意見を聞いた上で時季を指定して年5日まで取得させるものになっています。管理監督者も含んだ労働者が対象になっているため、注意が必要です。
また、労働者が自身で請求して取得した年次有給休暇の日数や、労使協定で計画的に取得日を定めた年次有給休暇である「計画年休」の日数については、その日数分を時季指定義務が科されている年5日の休暇から差し引く必要があります。
(参考:e-Gov法令検索「労働基準法 第三十九条」)
労働時間の客観的な把握
労働基準法では、労働者の労働時間や休日、深夜の業務などの規定を設けています。そのため、企業や事業主は労働者の労働時間を適切に把握することで、労働時間の適正化を図ることを求められています。しかし、多くの場合は労働時間の把握方法は労働者が自身で労働時間や休日日数などを申告して、企業や事業主はそれを基に労働時間の把握や判断を行っています。そのため、場合によっては不適切な運用が行われて、実態との乖離や過剰な長時間労働、割増賃金の未払いなどが問題になることがあるでしょう。
そのため、労働安全衛生法の改正に伴い、労働者の労働時間を客観的に把握することが定められました。具体的な方法としては、タイムカードの利用や勤怠システムの活用が挙げられます。
(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」)
月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
時間外労働に対する割増賃金は、厚生労働省では下記のように趣旨が定められています。
時間外労働に対する割増賃金の支払は、通常の勤務時間とは異なる特別の労働に対する労働者への補償を行うとともに、使用者に対し経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制することを目的とするものです。一方、少子高齢化が進行し労働力人口が減少する中で、子育て世代の男性を中心に、長時間にわたり労働する労働者の割合が高い水準で推移しており、労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるよう労働環境を整備することが重要な課題となっています。
(出典:厚生労働省「改正労働基準法」)
働き方改革に伴い、これまでは月60時間を超える時間外労働の割増賃金率については、「大企業が50%であり、中小企業が25%」でしたが、どちらも50%以上に改正されました。
(参考:e-Gov法令検索「労働基準法 第三十七条」)
「フレックスタイム制」の清算期間延長
フレックスタイム制とは、定められた総労働時間に対して労働者本人が始業時間や終業時間、休憩時間を決めることができる制度です。フレックスタイム制により柔軟な働き方が可能になりますが、一方で、総労働時間の精算が必要になります。精算期間については、これまでは1ヶ月間で行われていましたが、期間内に精算しようとすると長時間労働や勤務の間が短くなるケースが生じる可能性がありました。そのため、労働基準法の改正によりフレックスタイム制の精算期間が1ヶ月から3ヶ月に延長されました。これにより、月をまたいでの調整や精算が可能になったためより柔軟な働き方がしやすくなりました。
(参考:e-Gov法令検索「労働基準法 第三十二条」)
高度プロフェッショナル制度の導入
高度プロフェッショナルとは、高度の専門知識を保有しており、その職務の範囲が明確になっていて一定の年収要件を満たしている労働者のことを指しています。高度プロフェッショナル制度とは、労使委員会の決議や労働者本人の同意を前提として、下記の内容を踏まえて労働時間、休息、休日、割増賃金に関する規定を適用しないことを認める制度です。
・高度な専門知識を必要とする業務に従事している
・本人の同意がある
・労使委員会で結具が行われている
・行政へ届出をしている
・年間104日の休日確保措置など健康・福祉管理が行われている
これにより、労働時間ではなく成果に応じた働き方ができるため、より柔軟な働き方ができるようになります。
(参考:e-Gov法令検索「労働基準法 第四十一条」)
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
雇用形態に関わらない公正な待遇の確保とは、「同一労働同一賃金」とも呼ばれています。正規社員と非正規社員の間で、同じ業務に対する待遇の格差を是正するために、労働者派遣法やパートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の改正に伴い制定されました。
公正な待遇の確保のために、不合理な待遇差を禁止する「均衡待遇規定」と差別的取扱いを禁止する「均等待遇規定」が下記のように定められています。
■均衡待遇規定
・職務内容
・職務内容・配置の変更の範囲
・その他の事情
の違いに応じた範囲内で、待遇を決定する
■均等待遇規定
・職務内容
・職務内容・配置の変更の範囲
が同じ場合、待遇について正社員と同じ取扱いをする
(出典:e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)
労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)の改正により、労働者に対する待遇の説明義務が強化されました。元々、待遇の内容やその理由については有期雇用労働者に対する説明義務はありませんでした。しかし、労働内容に対する待遇に対して納得ができないままでは、業務に対する姿勢や生産性は向上できません。
そのため、有期雇用労働者に対しても待遇内容の決定理由や正規社員との差が生じている理由などについて説明することが義務付けられました。また、労働者が自身の待遇についてその内容や理由の説明を求めた際には、正当な理由なくそれを拒否したり、それを理由に不当な扱いをしたりすることも禁止されています。
(出典:e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律 六条、十四条、三十一条」)
産業医・産業保健機能の強化
産業医・産業保健機能の強化に関する法改正は、労働基準法や労働安全衛生法において、産業医や産業保健師の配置基準が見直されました。これにより、企業において産業医や産業保健師を配置することが義務付けられ、健康で安全な労働環境の整備が進められることが期待されます。
産業医や産業保健師の配置基準の改正により、産業医や産業保健師の数が増加することになります。これにより、企業はより多くの専門家による健康管理や安全管理を受けることができます。また、産業医や産業保健師による健康診断や相談支援が強化され、労働者の健康管理にも配慮されることとなります。
さらに、産業医や産業保健師による健康診断や相談支援だけでなく、企業が従業員の健康に配慮することが求められます。これには、ストレスチェックや定期的な健康診断などが含まれます。企業が従業員の健康に積極的に取り組むことで、生産性の向上や離職率の低下などの効果が期待されます。
また、長時間労働者に対する産業医の面接指導の対象者についても、「時間外・休日労働時間が1月あたり100時間を超える者」から「80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者」に変更されました。
中小企業における割増賃金率猶予措置の廃止
企業は、労働者が1日8時間、月に40時間以上の法定時間外労働を行った場合には、通常の賃金に上乗せして、25%の割増賃金を支払うことが義務付けられています。また、月の労働時間が60時間を超えた場合には、割増賃金として50%の金額を支払う必要があります。
この月60時間以上労働した場合の割増賃金率の適用については、中小企業はすぐに適用するのではなく猶予期間が設けられていました。猶予期間については、2023年の3月末までという期限が設けられていたため、現在は中小企業においても月60時間以上の労働に対する割増賃金率が適用されています。
そのため、例えば月収が30万円の労働者が月に70時間労働した場合、以下のように割増賃金の計算が行われます。
■25%の割増賃金(60時間以内):1,875円×1.25×60時間=140,625円
■50%の割増賃金(60時間以上):1,875円×1.5×10時間=28,125円
■合計:140,625円+28,125円=168,750円
企業の働き方改革推進状況
様々な法改正が行われた働き方改革ですが、実際に企業での推進状況はどうなっているのでしょうか。総務省が公表している「令和3年版 情報通信白書|「働き方改革」とデジタル化」では下図のように、働き方に関する日本、アメリカ、ドイツの3カ国での企業の取り組みを比較したものが示されています。
(出典:実施している「働き方改革」の内容)
日本では特に「テレワーク(在宅勤務、モバイルワーク、施設利用型勤務)の導入」や「フレキシブルタイム制(時差出勤も含む)の導入」などの取り組みが多くなっていることがわかります。新型コロナウイルスの蔓延に伴い、主にオフィスでの働き方を変える必要があったことが推察されます。
企業が働き方改革を促進するメリット
労働者にとってメリットが大きいものに見える働き方改革ですが、企業にとってもその推進をすることで下記のようなメリットが生まれます。
■人材採用がしやすくなる
労働人口の減少や、人材の流動化により企業において人材の確保は難しいものになってきています。更に、現在は給与やポストだけではなく、働きやすさやワークライフバランスの充実といったことに対して、労働者のニーズが高まっています。そのため、企業は適切な待遇面と共に、柔軟な働き方や職場の環境の良さを労働者に伝えることで、優秀な人材の確保がしやすくなると言えるでしょう。
■生産性が向上する
働き方改革に伴い、労働に対する待遇の見直しや労働時間の是正を行うことで生産性を向上させることが期待できます。しっかりと労働者に対して待遇の理由や背景を説明して納得してもらうことは、会社への信頼感や愛着心、エンゲージメントを向上することに繋がります。また、労働環境や労働時間を見直すことで、業務の効率化を図ることができるでしょう。
■社会情勢の変化に対応できる
働き方改革を促進することで、会社として柔軟な経営体制を整えることができます。VUCAの時代と言われ国内・海外情勢の変化や、2020年以降のコロナウイルス等の感染症の影響など予期していなかったことが生じた際には、柔軟な経営体制があると即座に対応することができるようになります。
企業が働き方改革を促進するデメリット
企業が働き方改革を促進する際には、デメリットも存在します。ここでは、代表的なデメリットについてご紹介します。
■コストの増加
労働環境の改善や労働時間の適正化には、多くのコストがかかるといえます。たとえば、産業医や産業保健師の配置には、専門的な知識や技能を持った人材の確保や設備の整備が必要です。
しかし、労働環境の改善がもたらすメリットも大きいです。例えば、労働者のストレスが軽減されることで、健康状態が改善し、生産性が向上することが期待できます。また、労働時間の適正化によって、労働者のワークライフバランスが改善することで、離職率の低下にもつながるでしょう。
■生産量の減少
労働時間の適正化やストレスチェック、健康診断などの導入により、従業員の労働負荷が軽減されることが期待されます。しかし、これにより生産量が減少する可能性があります。特に、製造業やサービス業など、生産性が重要な業種においては、労働時間の短縮や休暇制度の充実によることで生産量の生産性低下が懸念されます。
このような場合、従業員のモチベーションを維持するために、さまざまな手段を検討することが必要です。たとえば、福利厚生の充実やキャリアアップ支援制度の導入などが考えられます。
また、労働時間の短縮に対して仕事量が変わっていない現状を改善するためには、合わせて業務効率向上を目的としてスキルを磨くことで、生産性を向上させることが望ましいでしょう。
働き方改革の推進による助成金
働き方改革を企業が推進しやすくするために、政府からいくつか助成金が用意されています。ここでは、主な助成金の種類についてご紹介します。
働き方改革推進支援助成金
働き方改革推進支援助成金は、生産性を向上させ、時間外労働の削減、年次有給休暇や特別休暇の促進に向けた環境整備に取り組む中小企業事業主を支援するための助成金制度です。指定されている取り組みを実施して、設定されている成果目標を達成することで、助成金の支給対象となります。
働き方改革推進支援助成金を活用することで、以下のような取り組みを行うことができます。
■テレワークの導入
■ストレスチェックの実施
■残業時間の削減
■時間外労働の削減
■フレックスタイム制度の導入
■育児や介護と仕事の両立支援
働き方改革推進支援助成金を活用して労働生産性を向上させることで、企業にとっても利益を向上することができるというメリットがあるでしょう。
(出典:厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」)
業務改善助成金
業務改善助成金は、生産性向上に資する設備投資等(機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練)を行うとともに、事業場内最低賃金を一定額以上引き上げた場合、その設備投資などにかかった費用の一部を助成するものです。
業務改善助成金を活用するシーンとして、以下のようなものが挙げられます。
■生産性向上のための業務プロセスの改善
■デジタル技術の導入による業務効率化
■ワークライフバランスの改善に向けた取り組み
■スキルアップのためのコンサルティング・研修の導入
業務改善助成金を活用することで、経営課題に直結する取り組みの費用を抑えつつ、従業員の労働生産性を向上することができるでしょう。
(出典:厚生労働省「業務改善助成金」)
キャリアアップ助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の労働者に対して正社員化や処遇改善を行った事業主に対して支給される助成金です。「正社員化コース」「賃金規定等共通化コース」「賞与・退職金制度導入コース」「短時間労働者労働時間延長コース」などのコースがありますが、それぞれ一定の条件を満たした場合に助成金が支給されます。
具体的には、以下のようなシーンでの活用が期待されます。
■社員のスキルアップ支援
■マネジメントスキルの向上支援
■社員のキャリアアップ支援
キャリアアップ助成金を活用することで、社員のスキルアップやキャリアアップを促進し、企業の競争力向上が期待されます。
(出典:厚生労働省「キャリアアップ助成金」)
働き方改革の施策例
社員スキル向上・生産性を向上させる
働き方改革を推進するためには、仕組みの見直しと共に社員のスキル向上や生産性の向上といった人材育成も必要です。人材育成の方法としては、下記のようなものが代表的です。
■OJT
実際の業務を通じて、先輩社員や上司から直接指導を受ける方法です。実践的なスキルを身に付けることができることがメリットとして挙げられます。一方で、指導する側のスキルや業務の負担によって、獲得できる知識やスキルにムラができる可能性があることがデメリットとして挙げられます。
■Off-JT
普段の業務の現場ではなく、研修やeラーニングなどを活用して育成を行う方法です。体系的な知識・スキルを学んだり、本人のペースで学習をしたりができることがメリットとして挙げられます。特に昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)の潮流も相まって、ハード・ソフト問わずデジタルツールの研修を取り入れる企業が増加しています。一方で、実際の業務への活かし方の工夫や学習意欲の維持・向上への仕掛けなどが必要になります。
賃金体系を見直す
「同一労働同一賃金」の考え方のように、労働に対して適切な待遇を提供することで働き方改革を推進することができます。賃金体系の見直しをするためには、人事制度の全体像をしっかりと整理することが重要です。給与の支払いの仕方や評価の方法などをバラバラに変えてしまうと、人事制度の一貫性がなくなってしまいます。せっかく制度を見直したとしても説明責任を果たすことができずに、結果として労働者の不納得感を生んでしまう可能性があります。
まずは経営理念や会社として大切にすることなどから、自社の人事制度に対する基本的な考え方である人事ポリシーから検討し、実際の職務の調査やそれに対する待遇の決定を行いましょう。
労働時間の使い方を見直す
時間外労働時間の上限を守ると共に、労働時間の短縮は働き方改革の重要な施策の1つです。単純に業務時間を短縮することはできますが、業務内容の効率化が行われないままでは業務時間外に隠れて勤務することに繋がる可能性があります。
不健全な労働を避けるためにも、下記のような方法で業務の効率化と労働時間の見直しを行うことをおすすめします。
■業務プロセスの見直しを行い、最適化する
■勤怠管理システムを導入して適切な労働時間を把握する
■労働時間に対する評価ではなく、成果や業務内容に対する評価をする
■労働生産性を可視化する
■柔軟な働き方ができる制度を導入する
マニュアルを整備する
働き方を変えて生産性を向上するためには、業務の中にある不要な属人性を無くすことが大切です。業務内容で成果に繋がっているポイントを抽出し、誰でもできるようにマニュアル化することで業務効率を向上させることができます。マニュアル化を行う際には、下記のようなポイントが大切です。
■マニュアル化することで得たい成果を明確にする
■業務のプロセスを洗い出す
■必要なタスクや注意点を整理する
■効率の良いやり方や成果の出るやり方を洗い出す
■マニュアル化する際に盛り込む内容の取捨選択を行う
■ツールの使い方やデータの場所を整理する
注意することとして、「マニュアル化することでどれくらい影響があるか」をしっかりと検討することが大切です。マニュアル化することが目的になってしまうと、むしろ手間が増えてしまうことになります。
働き方改革の成功事例
花王株式会社
大手化学メーカーである花王株式会社は、リモートワークや在宅勤務などに伴うフレキシブルで柔軟な働き方に対応するために、「休み休みWork Style」を推奨しています。リモートワークの普及により、業務の効率化や場所を選ばない働き方の実現などができるようになった一方で、間断なく予定が詰まってしまうことで休息・休憩ができなくなるケースも発生していました。そのような状況を改善するために下記のような取り組みを行っています。
■リフレッシュタイムの活用
1時間あたり5分〜10分の休憩をとり、業務に集中できるようにする。
■思いやりタイムの推奨
会議予定を送信する時に、「思いやり」をもって前倒しで終了時間を設定する。
■フレックスタイムの活用拡大
社員に対してフレックスタイムの活用を推奨。
(出典:花王株式会社「花王、社員に「休み休みWork Style」推奨~働き方の変化を受けて、健康維持を目的に啓発~」)
高島屋
大手百貨店である高島屋は、「人」を通じた接客・サービスによって新たな付加価値を提供することを目指して、働きがいの向上や生産性の向上に取り組んでいます。従来の仕事の進め方や働き方を見直すために、下記のような取り組みを行っています。
■デジタルを活用した働き方の推進
社内申請書類・手続きのペーバーレス化や、契約書の電子化、リモート会議の活用を推進。
■両立支援の拡充
出産・育児・介護・傷病・不妊治療などの、ライフイベントと仕事を両立するための「ライフサポート休暇制度」を設定。
■副業制度
「社外経験を通じた一人ひとりの成長の実現とイノベーション創出に寄与する仕組み」として「副業制度」を導入。
■健康経営
メンタルヘルスチェックをはじめ、健康ポイントプログラムの導入や、疾病の早期発見・重症化予防に重点を置いた健康診断メニューなど、従業員の健康維持・増進に向けた取り組みを全社で推進。
(出典:高島屋「社会課題への取り組み」)
三井不動産株式会社
大手不動産企業である三井不動産株式会社では、多様な価値観・才能を持った人材が活躍する組織を目指して働き方改革を推進しています。取り組みとして、下記のように「意識改革」「インフラ整備」「組織単位での業務改革」を公表しています。
■意識改革
・トップメッセージの継続発信
・社内広報誌やメルマガの活用
■インフラ整備
・シェアオフィスの利用
・クラウドやビジネスチャットの活用
・デバイスの貸与
・社内Wi-Fi整備
・IT活用の相談カウンター設置
■組織単位での業務改革
・働き方企画推進室による部門サポート
・部門ごとにカスタマイズした業務効率化推進
・IT活用による生産性向上支援
(出典:三井不動産株式会社「「働き方改革」の取り組み」)
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・株式会社トーコン様
記事まとめ
少子高齢化に伴う労働人口の減少や働き方に対するニーズの多様化に対応するために、政府が働き方改革を推進しています。様々な法整備に伴い、労働時間や賃金体系の見直しが企業には求められています。労働者だけではなく、企業にとっても生産性の向上や人材確保などのメリットがあるため、業務効率化や制度の見直しなど自社に合った方法での働き方改革を促進していきましょう。
働き方改革に関するよくある質問
Q1:働き方改革とは?
A1:働き方改革とは、2016年に設置された「働き方改革実現会議」や2017年に計画された「働き方改革実行計画」、2019年4月に施行された「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」など、現在に至るまで働き方の変化を起こすために行われた取り組みのことを指しています。
働き方改革は、人々がそれぞれの事情に応じて多様な働き方を選択できる社会を実現することを目的にしています。そのために、長時間労働の是正や、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保などに政府や企業が取り組んでいます。
Q2:働き方改革の例は?
A2:働き方改革の例として、下記のようなものが挙げられます。
■OJTやOff-JTなどを活用した社員スキル向上・生産性向上
■労働に対する適切な賃金体系の整備
■労働時間の適正化
■業務プロセスやマニュアルの整備