裁量労働制とは?制度の概要や仕組み、導入メリットをわかりやすく解説
目次[非表示]
- 1.裁量労働制とは? 概要について
- 2.裁量労働制と他の制度の違い
- 2.1.高度プロフェッショナル制度との共通点・違い
- 2.2.事業場外みなし労働時間制との共通点・違い
- 2.3.みなし残業制度(固定残業代制度)との共通点・違い
- 2.4.フレックスタイム制度との共通点・違い
- 3.裁量労働制の仕組みについて
- 3.1.労働時間の取り扱い
- 3.1.1.①残業(残業代)
- 3.1.2.②みなし労働時間
- 3.1.3.③労使協定・36協定の締結
- 3.2.休日出勤や深夜労働の取り扱い
- 4.裁量労働制の対象業務や職種と導入方法
- 4.1.裁量労働制の種類
- 4.1.1.専門業務型裁量労働制
- 4.1.2.企画業務型裁量労働制
- 4.2.専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の違い
- 5.裁量労働制の導入メリット
- 6.裁量労働制の導入におけるデメリット
- 7.裁量労働制で残業代が発生するケース
- 7.1.あらかじめ定めた労働時間が8時間を超える場合
- 7.2.深夜残業を行った場合
- 7.3.休日出勤を行った場合
- 8.裁量労働制の比較データ問題について
- 8.1.比較データ問題とは
- 8.2.比較データ問題の今後
- 9.法人研修のことならリンクアカデミー
- 10.リンクアカデミーの研修導入事例
- 11.裁量労働制に関するよくある質問
- 12.まとめ
働き方改革や多様な働き方の広がりに伴い、裁量労働制を導入する企業が出てきています。裁量労働制とは、法的に定められた労働制度であるため、その内容についてしっかりと理解をしておくことが必要です。本記事では、裁量労働制についてその制度の概要や仕組み、導入のメリットについてご紹介します。
裁量労働制とは? 概要について
裁量労働制とは、労働時間制度の1つです。所定の労働時間とともに、残業時間を含めた実労働時間をもとにして給与が計算される制度ではなく、裁量労働制ではあらかじめ定められた一定の労働時間をもとにして給与が計算されます。
あらかじめ定められた労働時間が8時間であるとすると、実労働時間が5時間である場合でも10時間である場合でも、給与は8時間で計算されます。また、裁量労働制では一般的に出退勤の時間や休日出勤、残業時間などは会社から指示するのではなく、労働者が自分の意思で決定することになります。
裁量労働制は専門性が高い職種や、研究・開発職、クリエイティブな職種など様々な職種で適用されています。裁量労働制を上手く活用することで、より働きやすい環境をつくることができると言えます。
裁量労働制と他の制度の違い
裁量労働制と似ている制度として、いくつかの制度があります。よく裁量労働制と混同されることがあるため、それぞれの特徴や内容を把握しておきましょう。
高度プロフェッショナル制度との共通点・違い
裁量労働制と似ている制度に、高度プロフェッショナル制度があります。高度プロフェッショナル制度とは、労働者が高度な専門知識を保有しており、担当する業務の範囲が明確であり、労働者との合意がある場合に適用できる制度です。
裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の共通点と違いは、以下のものがあります。
■裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の共通点
・実際の労働時間ではなく、あらかじめ定められた労働時間や成果に対して報酬が支払われる
・出退勤の時間や労働時間、休日出勤といったことを会社から指定されるのではなく、労働者の裁量で決定する
■裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の違い
・裁量労働制が深夜労働や休日出勤に対する割増賃金が発生するのに対して、高度プロフェッショナル制度では割増賃金が発生しない
・高度プロフェッショナル制度は証券アナリストやコンサルタント、研究開発職のような職種に適用が限定される
事業場外みなし労働時間制との共通点・違い
事業場外みなし労働時間制についても、裁量労働制と似た制度として挙げられます。事業場外みなし労働時間制とは、毎日出勤する職場・事業場以外で業務を行う職種に適用される制度です。
毎日出勤する職場である場合には、上司や管理監督者が在中していることが多いため、正しい労働時間を把握することができます。しかし、普段とは異なる場所で一部、または全部の業務を行う際には、上司や管理監督者がいないことが多く、正しい労働時間を把握することができません。
そのため、事業場外みなし労働時間制を適用することで、特定の時間を労働したとみなすことができます。
裁量労働制と事業場外みなし労働時間制の共通点と違いは、以下のものがあります。
■裁量労働制と事業場外みなし労働時間制の共通点
・実労働時間ではなく、あらかじめ設定された労働時間をもとにして給与が計算される
■裁量労働制と事業場外みなし労働時間制の違い
・裁量労働制が職種に制限があるのに対して、事業場外みなし労働時間制は職種による制限がない
・事業場外みなし労働時間制は時間外労働に対する割増賃金が発生する
みなし残業制度(固定残業代制度)との共通点・違い
みなし残業制度(固定残業代制度)も、裁量労働制と類似した制度です。みなし残業制度とは、法的には定められておらず、企業が独自で設定する制度です。みなし残業制度では、実労働時間ではなく、雇用契約で定めた労働時間を働いたとみなします。
そのため、みなし残業制度では実際に働いた残業時間が所定の残業時間よりも少ない場合においても、みなし残業時間分の残業代が給与として支払われます。また、残業時間がみなし時間よりも多くなった場合には、超過した分の残業代が支払われることになります。
■裁量労働制とみなし残業制度(固定残業代制度)の共通点
・実際の労働時間があらかじめ定められた労働時間よりも少ない場合でも、あらかじめ定められた労働時間をもとにして給与が計算される
■裁量労働制とみなし残業制度(固定残業代制度)の違い
・働いたとみなす労働時間について、裁量労働制は所定労働時間の部分を対象としているのに対して、みなし残業制度は残業時間の部分を対象としている
フレックスタイム制度との共通点・違い
裁量労働制と似ている制度として、フレックスタイム制度も挙げられます。フレックスタイム制度とは、企業が定めたコアタイムや所定労働時間を守っている場合には、始業や終業の時間を自由に選択することができる制度です。
例えば、以下の場合を考えてみましょう。
・所定労働時間が8時間
・コアタイムが13:00〜17:00
この場合、労働者は13時までならいつでも始業することができます。また、17時以降であればいつでも終業することができます。ただし、所定労働時間が8時間であるため、1日の中で合計8時間は働くことが求められます。
■裁量労働制とフレックスタイム制度との共通点
・ある程度労働者が自由に労働時間を決めることができる
■裁量労働制とフレックスタイム制度との違い
・フレックスタイム制度はみなし労働時間の設定がないため、所定労働時間分は働く必要がある。一方で、裁量労働制では少ない時間で終業することができる
裁量労働制の仕組みについて
裁量労働制は、労働時間について労働者が自由に決定することができます。少ない時間で働くことができている場合は問題になることは少ないですが、過剰な労働時間での勤務が続く場合には、労働者の心身の負担が大きくなってしまう可能性があります。
労働者保護の観点から、労働時間や時間外労働に関する法的な取り決めがなされています。ここでは、裁量労働制に関する労働時間や残業時間に関する仕組みについてご紹介します。
労働時間の取り扱い
裁量労働制では、実際の労働時間に関わらずあらかじめ定められた労働時間に対して給与が支払われます。そのため、労働者は自分の裁量で労働時間を決定することができ、フレックスタイム制度のようなコアタイムでの出勤などを行う必要がありません。
裁量労働制では、以下の時間について労働者は自由に決定することができます。
■出勤時間
■退勤時間
■始業時間
■終業時間
■就業時間
①残業(残業代)
裁量労働制では、あらかじめ定められた労働時間に対して給与が支払われるため、時間外労働といったものが適用されません。そのため、基本的には時間外労働に対する割増賃金は発生しません。しかし、以下のような場合においては、割増賃金が発生します。
■深夜労働
22時から翌朝5時までの間に労働した場合には、深夜手当を支払う
■休日出勤
法定休日に労働した場合には、休日手当を支払う
②みなし労働時間
裁量労働制では、みなし労働時間が採用されています。裁量労働制の大きな特徴とも言えるみなし労働時間ですが、実際の労働時間に関わらず、あらかじめ定められた労働時間の分だけ労働をしたとみなす仕組みです。みなし労働時間によって労働者の給与が決定されるため、この時間を決める際には以下のような手続きが必要となります。
■労使委員会を設置する
■労使委員全員の合意による決議を行う
■裁量労働制の対象者との同意
■労働基準監督署への届出を行う
③労使協定・36協定の締結
裁量労働制を適用する場合には、使用者と労働者の間で労働条件などの取り決めを行う必要があります。労働条件などを取り決める際には、労使協定といった協定を結ぶことが必要となります。労使協定の中でも、いわゆる「36協定」と呼ばれている、労働基準法第三十六条で定められている「時間外及び休日の労働」についての取り決めには注意が必要です。
36協定では、法定時間を超えて労働をさせる場合や、法定休日に休日出勤をさせる場合には、労働組合または労働者の代表と協定を書面で結ばなくてはいけないと定められています。
休日出勤や深夜労働の取り扱い
裁量労働制では、あらかじめ定められた労働時間を設定するため、基本的には時間外労働に対する割増賃金は発生しないといった特徴があります。このほかにも、休日出勤や深夜労働に関する取り扱いもあるため、ご紹介します。
①休日出勤
裁量労働制が適用されている労働者についても、一般的な労働者と同じように休日を設ける必要があります。そのため、休日に労働をした場合には、裁量労働制であっても休日手当を別途支給する必要があります。
休日手当の算出については、実際の労働時間をもとにして行われます。固定残業代の取り決めがない場合には、以下のような方法で休日手当を支給することが労働基準法で定められています。
■時間外に相当する法定外休日について
「休日手当の金額」=「基礎賃金」×1.25
■法定休日について
「休日手当の金額」=「基礎賃金」×1.35
②深夜労働
裁量労働制においても、深夜労働に対する取り扱いが決められています。基本的に時間外労働に対する割増賃金は発生しないのが裁量労働制の特徴ですが、深夜労働については手当を支払う必要があります。
22時以降から翌朝の5時までの労働については、深夜労働としてみなされるため、割増賃金が発生します。この場合には、固定残業代の定めがない場合には、「基礎賃金×1.5」の深夜手当を支払う必要があります。
裁量労働制の対象業務や職種と導入方法
裁量労働制には、いくつかの種類があります。ここでは、裁量労働制ごとの対象業務や職種、導入方法についてご紹介します。
裁量労働制の種類
裁量労働制は、以下のような2つの裁量労働制に分類されます。
■専門業務型裁量労働制
■企画業務型裁量労働制
これらについて、その内容を確認しておきましょう。
専門業務型裁量労働制
専門業務型裁量労働制とは、専門性が高い業務に対して適用される裁量労働制です。厚生労働省が定めている定義として、以下のようなものがあります。
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働省告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度です。
高度な専門知識や専門技術が必要な職種の場合には、専門業務型裁量労働制が適用されます。現在は、研究開発や新聞もしくは出版の業務、広告・宣伝などの業務など19の業務については、専門業務型裁量労働制を適用することができるようになっています。
(出典:厚生労働省「専門業務型裁量労働制」)
企画業務型裁量労働制
企画業務型裁量労働制とは、事業運営の企画や調査などを行う業務を担う人に適用される裁量労働制です。厚生労働省によると、以下のような労働者が企画業務型裁量労働制が適用できるとされています。
事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者
企画業務型裁量労働制では、労働者がクリエイティブな能力を発揮できるような環境をつくるために導入されています。
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の違い
対象業務の違い
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制では、それぞれ以下のような業務が対象となっています。
■専門業務型裁量労働制
・新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
・情報処理システムの分析又は設計の業務
・新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法の制作のための取材若しくは編集の業務
・衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
・放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
・広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
・事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
・建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
・ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
・有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
・金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
・学校教育法に規定する大学における教授研究の業務
・公認会計士の業務
・弁護士の業務
・建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
・不動産鑑定士の業務
・弁理士の業務
・税理士の業務
・中小企業診断士の業務
■企画業務型裁量労働制
・経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
・経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
・人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
・人事・労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
・財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
・広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務
・営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
・生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務
対象事業場の違い
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制では、それぞれ以下のような事業場が対象となっています。
■専門業務型裁量労働制
・対象の業務がある事業場
■企画業務型裁量労働制
・本社・本店である事業場
・当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
・本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場
対象労働者の違い
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制では、それぞれ以下のような労働者が対象となっています。
■専門業務型裁量労働制
・対象の業務に従事している労働者
■企画業務型裁量労働制
・対象の業務に従事している労働者の中で、この制度の適用に同意している者
導入要件の違い
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制では、それぞれ以下のような導入要件が異なります。
■専門業務型裁量労働制
・制度の対象とする業務
・対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
・労働時間としてみなす時間
・対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
・対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
・協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
・健康・福祉を確保するための措置及び苦情処理のために実施する措置に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
■企画業務型裁量労働制
・以下の条件を満たしている労使委員会を設置する
①事業所に労働者の過半数で組織した労働組合、ないしは労働者の過半数を代表する者が任期を定めて指名されている
②議事録が作成・保存されている
・労使委員会で決議する
①委員の5分の4以上の多数決
②下記の決議項目が満たされている
ー対象業務
ー対象労働者の範囲
ーみなし労働時間
ー健康・福祉確保の措置の具体策
ー苦情処理の措置
ー労働者の同意を得る旨と不同意労働者に不利益な取り扱いをしない旨
・労働基準監督署に届け出る
・対象労働者の同意を得る
届出・報告の違い
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制では、それぞれ以下のような届出・報告の方法が異なります。
■専門業務型裁量労働制
・労使協定を所轄の労働基準監督署に提出する
■企画業務型裁量労働制
・労使委員会の決議を労働基準監督署長へ提出する
・以下の事項事項について、決議を行った日から6ヶ月以内に1回所轄の労働基準監督署長へ報告する
①対象労働者の労働時間の状況
②健康・福祉を確保する措置の実施状況
裁量労働制の導入メリット
裁量労働制を導入することで、会社側と個人側のそれぞれメリットがあります。
会社側のメリット
裁量労働制を導入することで、会社としては「人件費の予測がしやすい」「労務管理負担を軽減できる」といったメリットがあります。
■人件費の予測がしやすい
裁量労働制を導入することで、人件費の予測がしやすいといったメリットがあります。裁量労働制は、あらかじめ定められた労働時間に対して給与を算出することになります。深夜労働や休日出勤に対しては手当が発生することになるものの、基本的には時間外労働に対する残業代は発生しません。
そのため、あらかじめ定められた労働時間から人件費を事前に算出しやすくなります。人件費を事前に算出することで、会社としてどの程度経費がかかるのかを把握しやすくなります。その結果、経営判断としてどのような投資や節制を行うのかを判断することができるようになるため、人件費の把握は企業経営に関する重要な情報であると言えます。
■労務管理負担を軽減できる
労務管理負担を軽減できるといったことも、会社が裁量労働制を導入するメリットとして挙げられます。労働者それぞれの労働時間を収集して、残業代を計算することは非常に手間がかかるものです。毎月残業代をしっかりと支給する必要があるため、その作業は会社側としては負担となります。
一方で、裁量労働制はあらかじめ定められた労働時間に対して給与を計算することになります。そのため、裁量労働制では、深夜労働や休日出勤といった特別な場合を除いて、時間外労働に対する残業代は発生しません。裁量労働制を導入することで、労務管理負担を軽減することができます。
昨今、労働人口の減少やDX(デジタルトランスフォーメーション)の影響により、個人の業務の効率化がより求められるようになってきています。働き方の変化に伴い、働く個人に要求されるスキルが変化したことも併せて押さえておくべきです。
個人側のメリット
裁量労働制を導入することは、会社側だけではなく個人側に対してもメリットがあります。それでは、個人としてどのようなメリットがあるのでしょうか。裁量労働制を導入することで個人が得られるメリットについて、代表的なものをご紹介します。
■拘束時間が短縮される
裁量労働制を導入することで、個人にとっては「拘束時間が短縮される」といったことがメリットとして挙げられます。裁量労働制では、労働者が自分の裁量で労働時間を決めることができます。そのため、自身が作業効率を高めて生産性を上げることができれば、労働時間を短縮することができます。
しかし、裁量労働制ではあらかじめ定められた労働時間に対して給与が支払われるため、労働時間を短縮したとしても給与が減ることはありません。労働時間を短くしたとしても、設定した労働時間の分は働いたとみなされるため、事前に定められた給与が支払われます。
そのため、個人にとっては仕事の効率を高めることができれば、拘束時間を短くしながら安定した給与を得ることができます。ワークライフバランスもより良いものにできる可能性が高まるため、個人にとって大きなメリットとなると言えます。
■個人のペースで仕事をすることができる
個人のペースで仕事をすることができるといったことも、裁量労働制を導入することで得られる個人のメリットであると言えます。裁量労働制の対象となる職種は、専門的な業務を行う職種や自身の裁量で仕事を進める職種となります。そのため、中には監督者の承認が必要な場合もありますが、基本的には上司からの指示を受けずに自分の判断で仕事をすることになります。
そのため、仕事を自分のペースで進めることができます。自由な働き方や好きな働き方を選ぶことができるため、自分なりに生産性を高める働き方を選択することが可能です。
裁量労働制の導入におけるデメリット
裁量労働制を導入することは、会社や個人にメリットがあると同時にデメリットもあります。会社側、個人側のデメリットを把握しておくことで、自社で裁量労働制を導入する際に注意するべき点が見えてきます。ここでは、裁量労働制を導入する際のデメリットについてご紹介します。
会社側のデメリット
裁量労働制を導入するデメリットとして、「導入手続きの負担が生じる」といったことが挙げられます。裁量労働制を導入する際には、いくつかの取り決めや手続きを行う必要があります。以下のようなことが、裁量労働制を導入するために求められます。
■労働者の中から労働者を代表する人と、使用者を代表する人で構成された労使委員会を設置す
■労使委員会で協議を行い、労使委員会の運営ルールを定める
労使委員会では、以下のようなことについて決議をする必要があります。
■裁量労働制の対象となる業務を具体的な範囲とともに決定する
■労働したものとみなす時間を決定する
■労働者の健康、福祉を確保するための具体的な内容を決定する
■労働者からの苦情に対する措置の具体的な内容を決定する
この他にも、労使委員会でいくつかの項目を決議することが必要です。また、労使委員会で行った決議内容については、管轄の労働基準監督署に所定の形式で提出することが義務付けられています。
個人側のデメリット
裁量労働制は、拘束時間を少なくできる、自分のペースで仕事をすることができるといったメリットがあるとともに、いくつかのデメリットがあります。近年は特に、長時間労働や過労死のような社会問題が大きく取り上げられる機会が増えていることからも、裁量労働制のデメリットをしっかりと把握しておき、そのリスクを事前に把握しておくことが大切です。
裁量労働制を導入する個人のデメリットとしては、以下のようなものが挙げられます。
■長時間労働が常態化する可能性がある
裁量労働制は、実労働時間とあらかじめ定められた労働時間が必ずしも一致するわけではありません。労働時間を短くすることができれば、短い時間でも所定の給与を得ることができるため、個人としてはメリットとなります。
一方で、業務が想定以上に多くなってしまう可能性があります。独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表している「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」では、裁量労働制の適用に不満な点として、「労働時間(在社時間)が長い」「業務量が過大」といったものが大きな割合を占めています。
(出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「裁量労働制等の労働時間制度に関する調査結果 労働者調査結果」)
また、月平均労働時間を比較すると、一般労働者に対して裁量労働制が適用されている労働者の方が労働時間が長いといった調査結果もあります。業務内容の改善や作業の効率化といったことを実現しない場合には、実労働時間が定められた労働時間よりも大幅に多くなってしまい、長時間労働が常態化するといった事態に陥る可能性があります。以上の調査結果から、裁量労働制の導入には業務の効率化を図る施策も併せて導入することが推奨されます。
■基本的には残業代が出ない
裁量労働制では、深夜労働や休日出勤といった特別な場合には残業代や手当が発生しますが、基本的には時間外労働に対する割増賃金は発生しません。そのため、仕事に取り組む時間が長くなっている場合でも、あらかじめ定められている労働時間分の給与しか支給されません。
残業代が支給されない場合には、長時間労働が続くと労働者にとって裁量労働制は「働いている割にお金が手に入らない制度である」といった捉え方になることがあります。
■違法適用が生じることがある
裁量労働制を導入する際には、指定されている職種に適用する必要があります。しかし、中には企業側が裁量労働制を利用して残業代を抑えようとする場合があります。裁量労働制は基本的に時間外労働に対する割増賃金を支払う必要がないため、残業代を支払いたくないために対象外の業務を担っている労働者に対して適用したり、裁量権がない労働者に対して適用したりといったケースがあります。
裁量労働制で残業代が発生するケース
裁量労働制では、基本的に時間外労働に対する割増賃金は発生しません。しかし、以下のようなケースでは残業代が発生します。ここでは、例外的に裁量労働制で残業代が発生するケースについて確認していきます。
あらかじめ定めた労働時間が8時間を超える場合
長時間労働を防ぎ、労働者の健康を確保するために法的に労働時間が設定されています。法定労働時間は、1日あたり8時間、1週あたり40時間とされており、この時間は裁量労働制であらかじめ決めておく労働時間にも適用されます。
裁量労働制を導入する際に、労働時間を1日あたり8時間以上に設定する場合や、休憩時間を除いた労働時間が8時間を超える場合などには、8時間を超えた分は時間外労働としてみなされます。例えば、1日の労働時間が10時間である場合には、8時間を超過する2時間分は時間外労働の時間としてみなされることになります。この場合には、2時間分の残業代を労働者に対して支給する必要があります。
裁量労働制における時間外労働に対する割増賃金は、労働基準法三十七条に基づいて設定されています。この法律では、時間外労働に対する割増賃金は、以下のように割増賃金率25%を加算して算出するように定められています。
「時間外労働の割増賃金」=「時間外労働の時間」×「1時間あたりの賃金」×0.25
(時間外労働時間が1ヶ月あたり60時間を超える場合には、超過した分の時間につき50%の割増賃金率が加算されます。)
1時間あたりの賃金を算出するには、「月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間」の計算式を適用します。また、1ヶ月あたりの平均所定労働時間は「{(365日ー1年間の休日数)×1日の所定労働時間}÷12」という計算式で算出することができます。
例えば、あらかじめ定められた労働時間が10時間であり、1時間あたりの賃金が3,000円の裁量労働制の労働者である場合には、法定時間外労働時間は2時間であると計算することができます。この場合には、時間外労働に対する割増賃金率は25%であるため、1日あたりの時間外労働に対する残業代は以下のように計算することができます。
2時間×3,000円×1.25=7,5000円
そのため、この場合には1,500円の割増賃金を加算した7,500円が1日あたりの残業代として支給するべき金額となります。
深夜残業を行った場合
裁量労働制は、基本的には時間外労働に対する割増賃金が発生しませんが、一般的な労働者と同様に深夜労働に対する割増賃金が発生します。労働基準法三十七条では、深夜22時以降翌朝5時までの時間で深夜労働を行った場合には、その労働した時間に応じて割増賃金が発生します。
深夜労働を行った場合の割増賃金を計算する場合には、以下のように定められた深夜労働時間に応じて、労働者の1時間あたりの賃金に割増賃金率25%を加算して計算します。
「深夜残業の割増賃金」=「深夜労働の時間」×「1時間あたりの賃金」×0.25
1時間あたりの賃金を算出するには、「月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間」の計算式を適用します。また、1ヶ月あたりの平均所定労働時間は「365日ー1年間の休日数×1日の所定労働時間÷12」という計算式で算出することができます。
深夜労働の残業代を計算する際には、割増賃金が重複して発生する場合があることには注意する必要があります。深夜労働をしている時間が時間外労働に該当する場合には、時間外労働と深夜労働のそれぞれの割増賃金を加算することが求められます。
この場合には、深夜労働に対してのみ残業代を計算してしまうと、時間外労働に対する割増賃金が未払いとなってしまうことがあるため、注意しましょう。
例えば、1時間あたりの賃金が3,000円の裁量労働制の労働者である場合を考えてみましょう。この労働者に対しては、時間外労働1時間につき割増賃金率25%を加算した3,750円を支払う必要があります。これに加えて、残業した時間が夜22時以降翌朝5時までの間であった場合には、さらに25%の割増賃金率を加算して合計で4,500円の残業代を支払うことになります。
休日出勤を行った場合
いわゆる休日出勤と呼ばれている休日労働は、法的にその内容が定められています。曜日を問わず、1週間で1日もしくは4週間を通じた4日間の法定休日に労働者を労働させることを休日労働と呼びます。例えば、日曜日のような法定休日に労働者が仕事をした場合には、休日労働に対する割増賃金を支払う必要があります。
休日労働で労働者に休日に仕事をしてもらう際には、裁量労働制が適用されている労働者である場合でも労働時間に応じて以下のように35%の割増賃金率を加算して休日手当を支払う必要があります。
「休日労働の割増賃金」=「法定休日の労働時間数」×「1時間あたりの賃金」×0.35
1時間あたりの賃金を算出するには、「月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間」の計算式を適用します。また、1ヶ月あたりの平均所定労働時間は「365日ー1年間の休日数×1日の所定労働時間÷12」という計算式で算出することができます。
例えば、1時間あたりの賃金が3,000円の裁量労働制の労働者である場合を考えてみましょう。この労働者が法定休日に9時から12時まで仕事をした場合には、法定休日の労働時間は3時間となります。この場合には、以下のように割増賃金率35%を加算して休日手当を支払う必要があります。
3時間×3,000円×1.35=12,150
そのため、この場合には3,150円の割増賃金を加算した12,150円が1日あたりの残業代として支給するべき金額となります。
また、休日労働が深夜労働となった場合には、休日労働の割増賃金率35%に加えて、深夜労働に対する割増賃金率25%を加算する必要があります。そのため、休日労働が夜22時以降翌朝5時までになった場合には、労働時間に応じて休日労働と深夜労働のどちらも割増賃金を支払うことが求められます。
一方で、法定休日は法定労働時間がないため、休日労働では時間外労働に対する割増賃金は発生しません。そのため、深夜労働とは異なり時間外労働は休日労働の割増賃金は重複されません。
裁量労働制の比較データ問題について
裁量労働制について取り上げられる大きな問題として、比較データ問題があります。比較データ問題は裁量労働制のあり方を考える際には、大切なテーマでもあるため、ここでは裁量労働制の比較データ問題についてその内容と今後についてご紹介します。
比較データ問題とは
裁量労働制における比較データ問題は、2018年に裁量労働制に関する法改正を議論するタイミングで発生しました。裁量労働制に関して、当時の首相であった安倍晋三氏は「裁量労働制で働く人の方が労働時間が短いというデータもある」といった旨の発言をしました。しかし、その発言の根拠となっていた厚生労働省の調査データには、400を超えるデータの不備があったことが後に判明しました。
その他にも、労働政策審議会に提出された資料のデータについても異常値が発生していることが判明し、裁量労働制に関する議論が不安定なものになってしまうといった事態が起こりました。
裁量労働制に関して、正しいデータは何なのかやどのようなデータをもとにして裁量労働制の議論をしていけばいいのかについて、不安視されるきっかけとなった問題です。
比較データ問題の今後
裁量労働制に関する比較データ問題が発覚した後には、安倍晋三元首相は2018年2月に、根拠としたデータが不適切なものであったことに対する謝罪を行いました。また、働き方関連法案から裁量労働制の適用範囲の拡大といった論点を除外することを発表しました。
裁量労働制は働き方や仕事の効率を工夫することで、労働者にとってもメリットがありますが、長時間労働の常態化や過剰な業務負荷といったデメリットがあります。中には、「労働者を定額で過剰に働かせることができる制度」といった見方もあります。今後働き方の多様化に伴い、どのような裁量労働制のあり方が望ましいのかについては、注目が集まっています。
法人研修のことならリンクアカデミー
働き方改革を筆頭に近年では新型コロナウイルスの影響も受けて、個人の働き方について注目が高まっています。本記事で説明がある裁量労働制も時代の流れに沿った働き方の一つの枠組みです。しかし、先述したように、裁量労働制にも裁量があるからこそのデメリットが存在します。
そのための解決策の一つとして、個人の業務効率を向上させることが挙げられます。
例えば、普段行っているデータの管理を、普段よりも多種多様なExcelの機能や関数を使用することで、工数が減少し、時短に繋がります。昨今、バズワードになっているDX化の一端にはなりますが、このような変化で生産性を向上させ、裁量労働制を上手に活用していくべきなのではないでしょうか。
リンクアカデミーは「あなたのキャリアに、本気のパートナーを」をミッションに掲げて個人が「学び」を通じ自らのキャリアを磨き上げられる場を目指しています。
そのために
・㈱アビバが提供してきたパソコンスキルの講座提供
・大栄教育システム㈱が提供してきた資格取得を支援する講座
・ディーンモルガン㈱が提供してきた「ロゼッタストーン・ラーニングセンター」のマンツーマン英会話レッスン
といったキャリアアップに関するサービスをフルラインナップで展開してきました。
この実績と経験を活かして、業務効率の向上に関してだけでなく
・内定者・新入社員の育成
・営業力強化
・DX推進
といった幅広い課題に対してもソリューションを提供しています。
リンクアカデミーの研修導入事例
・ネットワンシステムズ株式会社様
・東京建物株式会社様
・株式会社フロムエージャパン様
・株式会社トーコン様
裁量労働制に関するよくある質問
Q1:裁量労働制とは?
A1:裁量労働制とは、労働時間制度の1つです。所定の労働時間とともに、残業時間を含めた実労働時間をもとにして給与が計算される制度ではなく、裁量労働制ではあらかじめ定められた一定の労働時間をもとにして給与が計算されます。
あらかじめ定められた労働時間が8時間であるとすると、実労働時間が5時間である場合でも10時間である場合でも、給与は8時間で計算されます。また、裁量労働制では一般的に出退勤の時間や休日出勤、残業時間などは会社から指示するのではなく、労働者が自分の意思で決定することになります。
裁量労働制は専門性が高い職種や、研究・開発職、クリエイティブな職種など様々な職種で適用されています。裁量労働制を上手く活用することで、より働きやすい環境をつくることができると言えます。
Q2:裁量労働制でも残業代はもらえるのか?
A2:裁量労働制では、基本的には時間外労働に対する残業代は発生しません。しかし、あらかじめ定められた労働時間が8時間を超えている場合や、深夜労働、休日出勤が発生した場合には、割増賃金を支払う必要があります。
Q3:高度プロフェッショナル制度(高プロ)との違いは?
A3:高度プロフェッショナル制度とは、労働者が高度な専門知識を保有しており、担当する業務の範囲が明確である場合には、労働者との合意がある場合に適用できる制度です。
裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の共通点と違いは、以下のものがあります。
■裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の共通点
・実際の労働時間ではなく、あらかじめ定められた労働時間や成果に対して報酬が支払われる
・出退勤の時間や労働時間、休日出勤といったことを会社から指定されるのではなく、労働者の裁量で決定する
■裁量労働制と高度プロフェッショナル制度の違い
・裁量労働制が深夜労働や休日出勤に対する割増賃金が発生するのに対して、高度プロフェッショナル制度では割増賃金が発生しない
・高度プロフェッショナル制度は証券アナリストやコンサルタント、研究開発職のような職種に適用が限定される
まとめ
裁量労働制は、あらかじめ定められた労働時間に対して給与が支払われる制度です。裁量労働制では、労働時間を労働者が自分の裁量で決定することができます。そのため、自分のペースで仕事をすることができることや、拘束時間を短くすることといったメリットが生まれます。一方で、長時間労働の常態化や過剰な業務量といったデメリットも生まれる可能性があるため、その導入には気をつける必要があります。裁量労働制を適切に活用して、自社の生産性や働きやすさを向上するようにしましょう。